開始2分で涙が止まらず。あらすじを知っていたほうが入り込めるかも
結論から言うと、最初のイントロで既に泣いてしまった。そして、ラストにも最初のイントロと重なる場面が出てくるので、またもや大泣き。
島の事情を知ってから見ると、登場人物の表情一つとっても切ない思いが伝わってくる。
もうあかん…。これはひとりで観て思い切り泣きたい映画や。
なんといっても、ラストに主人公が別れの島唄「アバヨーイ」を唄う場面に、映画のすべてが詰まっている。観る側は、しっかりとストーリーを追って丁寧に鑑賞したい。ラストの「アバヨーイ」がどれだけ完成されたものかが分かるだろう。いろいろな登場人物の様々な気持ちが一気に集まってくるような、そんな「アバヨーイ」だ。
観光だけで楽しく訪れるのもいいが、島と向き合うためには「高校がないため15歳になると島を出ていかないといけない」という、令和になってさえもいまだに存在する島の子供たちの宿命を知っておきたい。
15歳になるのは意外と早い。成長して十五が近づくにつれ、島の子供たちがどんな気持ちで十五をむかえてきたのか想像すると、胸がつまる。
家族が離れて暮らさないといけない場合、どんなことが起こるのかという「ありうる話」も盛り込まれているので、「家族」について考えるきっかけにもなるかもしれない。
管理人は南大東島を訪れる前にこの映画を観られなかったのだが、これから行く人は、ぜひ観てから行ってほしい。本当の島の姿を知っていると、島での体験ひとつひとつがもっと味わい深いものになっただろう。この点は、悔やまれてならない。
映画のもうひとつの楽しみ方として、島のリアルな暮らしをドキュメンタリー番組のような感覚で観られるところがある。有名な場所もたくさん映っているので、来島した際には「映画に出てきた場所や!」と盛り上がること間違いなしだ。
「旅立ちの唄~十五の春~」のあらすじ
映画は、主人公「優奈」が、ひとつ年上の先輩の唄う「アバヨーイ」を見届けるシーンから始まる。
「アバヨーイ」とは、島の子供が中学を卒業し高校へ通うため、島を出ていく際に島民全員に向けて唄うお別れの島唄である。優奈は、来年自分がそれを唄わないといけないと自覚しつつ、これから島での最後の一年を過ごすことになる。
この一年は、優奈にとってなにもかも心に留めておきたい一年だ。島の行事ひとつとっても、心から楽しんで、自ら積極的に島の人たちに関わっていく。
優奈は島では、父親と一緒に住んでいる。今は、結婚して家を出ていったはずの姉と、その子供も一緒に住んでいる。母親は那覇に行ったきり戻ってこない。
家族をバラバラにさせてしまう原因も、ここが「絶海の孤島」だからなのだろうか。物理的な距離は、ときにこころの距離をも離してしまうらしい。
島の行事は、同い年の男の子との出会いのきっかけにもなった。隣の北大東島に住む「健斗」だ。携帯電話を持たないふたりは、手紙を交換しながら心をかよわせていく。島を出たら、一緒の高校に通おうと約束もした。
しかし、身体を壊した父親やまだ小さい弟妹のため、健斗は島に残ることを決意した。優奈は島を離れても心強くいられると思っていたのに、心のよりどころのような存在をなくしてしまう。
優奈が那覇に訪れた際、母親が帰ってこない原因もはっきりした。姉からは「優奈が島を出ても那覇で一緒に暮らせるから」という理由だと聞いていたが、実際は父親とは別の男性と暮らしていたのだ。もともと島の人間ではない母親にとって、絶海の孤島はあまりにも狭すぎる世界だったのか。
島を出ても母親と一緒に暮らせるんだと安心していた優奈は、またもや心のよりどころをなくしてしまう。ショックを受けた優奈は、那覇ではひとりで暮らしていこうと決心する。
優奈は、この一年を家族や島の人たちと丁寧に過ごしながら、お別れの唄「アバヨーイ」の練習にも励んでいた。先生からは、
「この歌は泣いて歌ったら価値ないからさ、堪えて歌うんだよ」
と教えられ、まだ実感はないが徐々に近づく別れのときに備える。泣かずに唄い切り、両親や島のみんなに「自分は島を出てもしっかりやっていける」という姿を見せ、安心して送り出してもらうためだ。
そして、高校受験も終わり、無事に那覇の高校へ通うことになった優奈は、ついに「アバヨーイ」を唄う日を迎える。
一年前の自分がされたと同じように「ボロジノ娘」を後輩へと託し、自身は最後の舞台へ立つべくステージに向かう。後輩はいろんな思いがあふれてきたのか、涙が止まらない。
しかし、自分は泣いていてはいけない。しっかりと最後まで泣かずに唄い切ることが、家族やお世話になった人たちへの、自分にできる精いっぱいの恩返しだ。
優奈はついに最後まで耐えて、唄い切った。
この日をきっかけに、父親と母親は、もういちど家族をやりなおそうという気持ちに傾いた。姉夫婦も誤解が解けたようで、家族みんなが再出発の春となる。
優奈が島を発つ日、島のみんなが集まり「がんばってこいよ」と励まし声をかけてくれる。父親とも、これからは離れて暮らさなければならない。
優奈たち卒業生がゴンドラに乗りこむと、残酷なまでに一瞬で、船の甲板へと運ばれた。
家族や島の人との別れを惜しみ、ずっと甲板で手を振っていた子供たちが、ひとりまたひとりと船内へ入っていく。島が遠くになるにつれ、もう後戻りはできないという決心がついたのだろうか。もしかしたら、あきらめのような気持ちもあるかもしれない。
しかし、島を離れるのは悲しみだけではない。新しい世界への期待もあるはずだ。船はまっすぐに、那覇に向けて進んでいく。
「ゴンドラ」の存在
15歳になったら島を出るというのは、島の子供たちにとって「おきて」のようなもの。
しかも、出ていくと言っても電車や車ですぐに通える場所ではない。島は最寄りの那覇まで360km(東京⇔大阪くらい)も離れており、飛行機で1時間、船で15時間ほどもかかる。船や飛行機は天候に左右されやすく、欠航になることも多い。
南大東島は絶海の孤島という表現がぴったりの島だ。島は隆起してできたものであるため、周りはストンと深い海に囲まれている。そのため、大きな船が入る港の建設もできない。船は接触による故障を避けるため、陸からは10mほど離して接岸する。そこで、人や荷物の運搬に「ゴンドラ」が使われているのだ。
船と港。わずか10mほどしか離れてはいないが、島の子供たちがゴンドラに乗せられ島を離れていくときに、これほど遠い距離はないかもしれない。島に残る人たち。島を旅立つ自分。船と陸の間には、明確な区別がある。
ゴンドラに乗り込むと、いとも簡単につりあげられ家族と離れ離れにされ、船に運ばれていく。その様子がとても残酷に映ってしまう。島に残る大人たちも、昔の自分を思い出しているのかもしれない。そのときと同じ思いを、まだたった15歳の子供たちが味わっている。
子供たちにとっても、残される島の人たちにとっても、辛い場面だ。しかし、両者を一瞬で引き離していくゴンドラは、逆に、後ろ髪をひかれる思いを断ち切る役目を果たしているのかもしれない。
島を離れ高校生活を全うし、立派な大人になるために必要な儀式であることを思うと、さみしいばかりではない。ゴンドラは、晴れ晴れとした気持ちにもさせてくれるのだ。
管理人が来島した当時は、まだ映画を観ていなかったため、素直にアトラクション気分を楽しんでしまった【南大東島⑤参照】。しかし、これが「15歳の春に家族を引き離すゴンドラ」と知っていたら、また違う思いで乗れただろう。
BEGINの唄う主題歌「春にゴンドラ」も必聴だ。
映画の考察
映画の中で、島の人たちは「十五の春」を子供たちの自立を願い、精いっぱい送り出すのと同時に、大人になったら島に帰ってくるのだろうか、外の世界が気に入ってもう帰ってこなくなってしまうのでないか、と恐れているふしも感じられた。
送り出すほうも、さみしさと同時に不安をかかえながら生活していくのだろう。それが、毎年のように積み重なっていく。「絶海の孤島」であるがゆえの宿命かもしれない。
「アバヨーイ」を唄っているシーンでは、どの娘も一見、無表情に見える。しかし、本人にとってはそれが精いっぱいの我慢なのだということが、痛いほど伝わってきた。一瞬でも気を抜いたら、涙がこぼれてしまう。少しでも表情をくずしたら、そこから一気に泣いてしまう。だから、無表情にならざるを得ない。
「アバヨーイ」を唄い切ったとき、自身は島を離れていかなければならないという事実。
早く最後まで唄い切って家族を安心させたいような、この時間がずっと終わってほしくないような…。
単純に泣いて別れるよりも、泣かないことで、美しく気高い心を感じられる。
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映画に出てきた島の風景
・さとうきび畑
・港とフェリー「だいとう」
・小中学校&横断幕「早ね早起きあさごはん」
・南大東神社
・工場&煙突の標語「さとうきびは島を守り島は国土を守る」
・南大東空港
■この記事のシリーズは、こちらからリンクできます。
【南大東島①】(予約の章)
【南大東島②】(準備編)
【南大東島③】(船旅の章)
【南大東島④】(北大東島寄港の章)
【南大東島⑤】(南大東島上陸の章)
【南大東島⑥】(地底湖探検の章)
【南大東島⑦】(星野洞の章)
【南大東島⑧】(夕日と珍味の章)
【南大東島⑨】(民宿きらく家の章)
【南大東島⑩】(地方気象台の章)
【南大東島⑪】(産業まつりの章)
【南大東島⑫】(移動手段の章)
【南大東島⑬】(バイクで島を一周の章~前編)…大東神社、大東そば、南大東漁港
【南大東島⑭】(バイクで島を一周の章~中編)…バリバリ岩、本場海岸、オヒルギ群落
【南大東島⑮】(バイクで島を一周の章~後編)…秋葉神社、日の丸山展望台、海軍棒など
【南大東島⑯】(最終日の章)
【南大東島⑰】(旅立ちの唄~十五の春~の章)※この記事はこれ(完)
(おまけ・南大東島と「進撃の巨人」が似ている件)